卸売業とは、生産者から商品を仕入れて小売業者に販売する事業を言います。
商品を一手に扱うことで、生産者が多数の小売業者と、小売業者が多数の生産者と取引する負担を軽減します。
また、生産者はまとめて商品を納品することができ、小売業者は商品をさがす手間が省けるなどのメリットもあります。
卸売業は安定した収益を上げられますか。
卸売業と一口に行っても、取り扱う商品は様々です。
日用品などの身近なものから、建設機械や天然資源まで、何でも対象になります。
取り扱う商品が
- 食品
- 医薬品
- 生活必需品
であれば、景気の動向に左右されにくく、安定した収益が上げられると思いますが、
- 石油石炭などの資源
- 素材や材料
- 機械類
の場合は、その商品を必要とする企業の動向に左右されます。
また、生活必需品の場合は、ECサイトの拡大により、卸売業者を経由せずに商品を届ける業態も増えてきました。
これらのことを考慮しながら、安定した収益を上げ、継続して配当をもらえる企業の株を購入したいですよね。
卸売業の中で、どの銘柄が優良な高配当株にあたるのか、実際に選んでみましたので紹介します。
- スクリーニングで対象を絞る
- 利益や配当が増えている
- 事業内容が将来有望
高配当株をスクリーニング
卸売業に分類される上場企業は300社以上あります。
卸売業は様々な商品に対して事業を行いますので、数は多くなりますよね。
まずは、スクリーニング(条件検索)を行い、分析対象を絞ります。
スクリーニングの条件
最初にスクリーニングの条件を決めます。
スクリーニングの目的は、高配当株を探すことですので、まずは利回りが高くなくてはなりません。
また、企業としての安定性や情報入手のしやすさを考えると一定規模の企業を選ぶと良いと思います。
- 配当利回り3%以上
- 時価総額1000億以上
として銘柄を絞ります。
スクリーニングサイトの設定
各証券会社にスクリーニングサイトがありますが、私は、バフェットコードを良く使います。
ネット上に無料で公開されており、使いやすく、グラフが多彩で、情報の推移がわかりやすいのが特徴です。
バフェット・コードを使いスクリーニングを行ってみましょう。
バフェット・コードの左上にある条件検索をクリックして、
- 配当利回り(会予)3%以上
- 時価総額1000億以上
- 卸売業
を設定し、検索ボタンを押します。
スクリーニング結果
2022年6月29日に実施したスクリーニングの結果は、次の19銘柄となりました。
コード | 会社名 | 配当利回り (会社予想) | 時価総額 (百万円) |
---|---|---|---|
2768 | 双日 | 5.8% | 448,732 |
2784 | アルフレッサ HD | 3.1% | 370,336 |
3107 | ダイワボウHD | 3.4% | 167,762 |
3132 | マクニカ・富士エレHD | 4.5% | 167,609 |
3167 | TOKAIホールディングス | 3.6% | 115,026 |
8001 | 伊藤忠商事 | 3.5% | 5,496,226 |
8002 | 丸紅 | 4.8% | 2,149,119 |
8012 | 長瀬産業 | 3.2% | 224,929 |
8015 | 豊田通商 | 3.5% | 1,622,009 |
8020 | 兼松 | 5.1% | 114,081 |
8031 | 三井物産 | 3.9% | 4,894,050 |
8053 | 住友商事 | 4.8% | 2,332,508 |
8058 | 三菱商事 | 3.7% | 6,033,164 |
8078 | 阪和興業 | 3.5% | 115,328 |
8098 | 稲畑産業 | 5.0% | 130,398 |
8133 | 伊藤忠エネクス | 4.5% | 119,652 |
9810 | 日鉄物産 | 5.9% | 164,500 |
9832 | オートバックスセブン | 4.2% | 110,431 |
9934 | 因幡電機産業 | 4.1% | 149,323 |
時価総額の大きい総合商社から小売りチェーンの関連企業など様々ですね。
財務状況を確認する
スクリーニングで銘柄が絞れたら、財務状況を確認します。
- 利益が長期で上昇しているか
- 配当は増えているか
- 配当性向が低いか(50%以下)
を過去の推移を見て確認します。
バフェット・コードの企業概要で財務状況の推移を見ていきましょう。
バフェット・コードで企業概要を表示させるには、トップページに検索窓に企業名又は証券コードを入力します。
また、スクリーニングした結果に表示された企業名をクリックして表示させることも可能です。
バフェット・コードの企業概要から、利益と配当の推移と配当性向を確認します。
双日
総合商社、双日の利益と配当の推移です。
利益は2013年3月期に純利益がマイナスとなりましたが、その後は上昇傾向です。
配当は累積配当を続けていましたが、2021年3月期に大きく減配しました。
配当性向は98.1%となっており、無理をして配当を出している様子が伺えます。
アルフレッサホールディングス
医薬品の卸業で国内首位、アルフレッサホールディングスの利益と配当の推移です。
利益は直近で減少しましたが、配当は連続増配を続けています。
配当性向は34.0%ですが、利益が下がっているので今後は高くなるかもしれません。
ダイワボウホールディングス
IT系に強みを持つ、ダイワボウホールディングスの利益と配当の推移です。
利益は直近で減少、配当は2020年3月期に減配しています。
配当性向は33.6%ですが、利益が下がっているので、配当の成長は期待しにくいかもしれません。
マクニカ・富士エレホールディングス
独立系の半導体商社、マクニカ・富士エレホールディングスの利益と配当の推移です。
利益は上昇傾向が見えます。
配当は2017年3月期に減配し、その後、横ばいが続きました。
配当性向は24.1%です。
TOKAIホールディングス
東海地域を基盤とする商社、TOKAIホールディングスの利益と配当の推移です。
利益は上昇傾向ですが、配当は横ばいが続く傾向にあります。
配当性向は46.7%と少し高めですね。
伊藤忠商事
3大総合商社の1つ、伊藤忠商事の利益と配当の推移です。
利益は上昇傾向、配当も減配無しの累進配当を続けています。
配当性向は19.7%と低く、良い感じですね。
丸紅
総合商社、丸紅の利益と配当の推移です。
利益は横ばいが続き、2020年3月期には純利益がマイナスになりました。
配当は2016年3月期と2021年3月期に減配しており、利益に応じた配当方針のようです。
配当性向は25.2%です。
長瀬産業
化学系の専門商社、長瀬産業の利益と配当の推移です。
利益も配当もきれいに上昇していますね。
配当は10期以上、連続増配を行っています。
配当性向は25.0%です。
豊田通商
トヨタ系の商社である豊田通商の利益と配当の推移です。
利益は上昇傾向ですが、2016年3月は純利益がマイナスとなりました。
配当は連続増配を維持しています。
配当性向は25.3%となっています。
兼松
IT、食糧、鉄鋼の主とした老舗商社、兼松の利益と配当の推移です。
利益は、近年横ばい、配当も直近で横ばいが続いています。
配当性向は34.0%です。
三井物産
3大総合商社の1つ三井物産の利益と配当の推移です。
利益は横ばいが続き、2016年3月期に純利益マイナスを出しましたが、直近では上昇しています。
配当は2017年3月期に減配、その後は累進配当。
配当性向は18.4%と低くなっています。
住友商事
総合商社、住友商事の利益と配当の推移です。
利益は全体として上昇傾向ですが、2015年3月期と2021年3月期に純利益がマイナスになっています。
配当は累進配当を続けていいましたが、2021年3月期に減配しました。
配当性向は29.7%となっています。
三菱商事
3大総合商社の1つ、三菱商事の利益と配当の推移です。
利益は上昇傾向ですが、2016年3月期の純利益はマイナスになりました。
配当は2016年3月期に減配しましたが、その後は連続増配を続けています。
配当性向は23.6%です。
阪和興業
独立系の鉄鋼商社、阪和興業の利益と配当の推移です。
利益は2020年3月期に純利益マイナスとなりましたが、全体的に上昇しています。
配当は2020年3月、2021年3月と連続して減配しました。
配当性向は9.3%と低く、利益を内部留保する方針かもしれません。
稲畑産業
化学系の専門商社、稲畑産業の利益と配当の推移です。
利益は多少変動がありますが、右肩上がりで増えています。
配当も減配無しの累進配当を維持していますね。
配当性向は28.1%です。
伊藤忠エネクス
伊藤忠系列でエネルギー商社首位の伊藤忠エネクスの利益と配当の推移です。
利益は上昇傾向が読み取れます。
配当は、連続増配を続けていましたが、2022年3月期に少し減配しました。
配当性向は41.1%と少し高くなっています。
日鉄物産
日本製鉄系列の専門商社、日鉄物産の利益と配当の推移です。
利益は横ばいから直近で上昇しました。
配当は2020年3月期、2021年3月期と連続で減配しています。
配当性向は31.9%です。
オートバックスセブン
自動車用品店の国内最大手、オートバックスセブンの利益と配当の推移です。
利益は減少傾向から上昇傾向に推移、配当は横ばいが続いています。
配当性向は66.7%と高くなっていますね。
因幡電機産業
電線、配線器具等を扱う独立系商社、因幡電機産業の利益と配当の推移です。
利益はきれいな右肩上がりですが、配当は2016年3月期に減配しています。
配当性向は49.8%と少し高めです。
財務状況を確認した結果
コード | 会社名 | 利益上昇 | 配当増加 | 配当性向 |
---|---|---|---|---|
2768 | 双日 | △ | △ | 98.1% |
2784 | アルフレッサ HD | × | ○ | 34.0% |
3107 | ダイワボウHD | △ | △ | 33.6% |
3132 | マクニカ・富士エレHD | ○ | × | 24.1% |
3167 | TOKAIホールディングス | ○ | △ | 46.7% |
8001 | 伊藤忠商事 | ○ | ○ | 19.7% |
8002 | 丸紅 | △ | × | 25.2% |
8012 | 長瀬産業 | ○ | ○ | 25.0% |
8015 | 豊田通商 | △ | ○ | 25.3% |
8020 | 兼松 | △ | △ | 34.0% |
8031 | 三井物産 | △ | △ | 18.4% |
8053 | 住友商事 | △ | △ | 29.7% |
8058 | 三菱商事 | △ | △ | 23.6% |
8078 | 阪和興業 | △ | × | 9.3% |
8098 | 稲畑産業 | ○ | ○ | 28.1% |
8133 | 伊藤忠エネクス | ○ | △ | 41.1% |
9810 | 日鉄物産 | △ | × | 31.9% |
9832 | オートバックスセブン | △ | △ | 66.7% |
9934 | 因幡電機産業 | ○ | △ | 49.8% |
- 利益が長期で上昇しているか
- 配当は増えているか
- 配当性向が低いか(50%以下)
を基準に調べてみました。
卸売業は景気の影響を受けやすい企業も多く、利益の上昇傾向を判断するのは難しいですね。
考え方が分かれるところもあると思いますが、
- 伊藤忠商事
- 長瀬産業
- 豊田通商
- 稲畑産業
- 伊藤忠エネクス
の5社を財務優良企業として選びました。
将来性を確認する
高配当で財務優良企業を選んだら、最後に事業内容を見ていきます。
- 事業内容に成長性(広がり)があるか
- 世の中の潮流とあっているか
- 日本以外の成長力を取り込んでいるか
を企業のホームページや決算報告書などを見て確認します。
伊藤忠商事
3大総合商社の一角、非財閥系で、繊維や食料、中国ビジネスに強みがあります。
傘下にはファミリーマートなどの有力企業も多数。
- 繊維(繊維、糸、衣料品、服飾雑貨等)
- 機械(インフラ、発電、環境、輸送等)
- 金属(鉱物、製品加工、原子燃料等)
- エネルギー・化学品(燃料、芳香等)
- 食料品(原料から生産、流通、販売等)
- 住生活(生活材、住宅資材、不動産等)
- 情報・金融(情報通信、金融、保険等)
- 第8(新ビジネス創出、客先開拓等)
幅広い事業を展開しており、景気の影響を受けにくい生活消費関連が主力です。
ESG投資も積極的で、大手商社では唯一、GPIFのESG投資指数の全てに採用されています。
世界各地に拠点があり、海外事業も大規模に展開しています。
長瀬産業
1832年創業、電子材料・合成樹脂等を扱う化学系専門商社、化学品取扱商社では国内首位。
単なる素材の供給だけでは無く、開発や加工なども行い事業の幅を広げています。
- 機能素材(塗料、樹脂、フッ素、5G関連)
- 加工材料(色素、樹脂、ゴム、無機等)
- 電子・エネルギー(樹脂、半導体材料等)
- モビリティ(内外装、センサー、車関連)
- 生活関連(医薬、農薬、試薬、添加物等)
通信エレクトロニクスや土木建材から生活関連まで対応業種が多彩。
自動運転や遠隔医療における次世代半導体や5G関連素材などの成長産業も扱っています。
欧米、アジア各地に拠点があり、売上高の約68%は海外事業の収益です。
豊田通商
トヨタ系の総合商社、2006年にトーメンと合併して、大手総合商社の地位を確立。
商品の供給だけでは無く、資源開発から供給体制の構築、廃棄物の再利用まで幅広い価値を提供しています。
- 金属(鋼、金属、鉄、レアアース等)
- グローバル部品、ロジスティクス
- 自動車(自動車、トラック、バス等)
- 機械、エネルギー、プラントプロジェクト
- 化学品、エレクトロニクス
- 食料、生活産業(食品、保険、医療等)
- アフリカ(自動車、ヘルスケア等)
自動車関連が主力で、営業利益の7割を占めます。
自動車産業は日本の基幹産業でもあり、今後の成長も期待できますね。
世界各地に拠点を持ち、特にアフリカの事業に強みを持っています。
稲畑産業
130年の歴史がある化学系の専門商社。住友化学系ですが稲畑オーナー色も強い会社です。
ニッチな分野で独自色が発揮しています。
- 情報電子(半導体、液晶、装置、顔料等)
- 化学品(自動車、製紙、染織、建材等)
- 生活産業(医農薬、トイレタリー、食品)
- 合成樹脂(汎用、プラスチック等)
情報電子、合成樹脂が収益の柱で、8割を占めます。
今後は自動車分野、再生医療、新エネルギー分野に力を入れ事業を拡大して行く予定。
海外18か国に約60拠点を展開しており、売上高の約64%は海外事業によるものです。
伊藤忠エネクス
伊藤忠系のエネルギー専門商社で、国内首位。
石油製品から電力、日産車の販売まで幅広く展開しています。
- ホームライフ(灯油、ガス、生活機器等)
- カーライフ(ガソリン、軽油、自動車等)
- 産業ビジネス(燃料、ガス、アスファルト)
- 電力・ユーティリティ(電力、熱供給等)
石油製品やLPガスの販売がメインの商社です。
再生可能エネルギー発電事業も手掛けています。
日本国内で事業を展開する企業ですね。
卸売業の高配当株を選ぶ
- 利回り3%、時価総額1000億で対象を絞る
- 利益や配当が上昇傾向、配当性向50%以下
- 事業内容が将来有望、海外比率も高い
卸売業の高配当株を探してみました。
2022年6月29日時点では、
- 伊藤忠商事
- 長瀬産業
- 稲畑産業
が優良な高配当株に見えます。
長瀬産業や稲畑産業は、総合商社に比べると規模は小さいですが、連続増配を続けており将来も期待できます。
伊藤忠商事は、日本を代表する総合商社で安定性は高そうですね。
卸売業はあらゆる産業に関わる総合業種であり、単独でもリスク分散が図れます。
ですので、高配当株ポートフォリオには必須の業種だと思います。
以上、参考になれば幸いです。
その他金融業の高配当株についてはこちらで解説しています。
【高配当株の探し方】その他金融業のセクター(業種)で銘柄を選ぶ
総合商社の株は、著名投資家ウォーレン・バフェット氏が購入したことで話題になりました。
好業績で割安な株を見つける、これがバフェット氏の考え方です。
どのような株をねらうと良いか、考え方をわかりやすく解説しています。